がんの再発転移がわかったあなたへ 患者のための緩和ケアの受け方

おしらせ

緩和ケア冊子とサイトを二人三脚で作った、前田典子さんが2017年9月17日に亡くなられました。

最期の47日間は緩和ケア病棟の明るい広々とした部屋で、沢山のお見舞の方と 穏やかに、時に鋭い考察力を発揮した会話を楽しんでおられました。前田さんらしい「あっぱれ!」な最期でした。

ただ、緩和ケア病棟に入院するまでは、想定外のことが多く、スムーズには進みませんでした。
「緩和ケアの冊子・サイトを作って、準備をしたつもりだったのにこうなるんだ。」と、前田さんも私も、現実の厳しさを知った思いでした。この現実とその対処法については、少し時間をかけて、まとめてみようと思っています。
毎日新聞でも、取り上げていただきました。下記サイトで読んでいただけます。
https://mainichi.jp/articles/20170924/ddm/013/040/003000c

前田さんとお仕事でご一緒してから34年、多くの時間を共有させて頂き、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。 心から感謝しております。

池谷 光江

Contents

    1. 1 緩和ケアを正しく知っておこう
      1. 緩和ケア=終末期医療と思っていませんか?
    1. 2 痛みをがまんしないで
      1. 2-1医師とのコミュニケーション
      2. 2-2痛みの伝え方
      3. 2-3痛みを和らげる治療の基本
        1. 1.WHO方式がん疼痛治療法
          • ・主な鎮痛薬の種類
          • ・鎮痛薬使用の5原則と三段階除痛ラダー
        2. 2.他にもある痛みを和らげる方法
        3. 3.副作用対策にもなる補助療法
      4. 2-4精神的な苦痛には
      5. 2-5最後まで痛みに苦しまない治療「セデーション」鎮静
      6. 2-6がんで亡くなる場合の「体力の落ち方」
    1. 3 あなたに合う緩和ケアの探し方
      1. 3-1緩和ケアの種類
        1. 1.がん治療中に受ける緩和ケア(緩和ケアチーム)
        2. 2.在宅で受ける緩和ケア
        3. 3.がんの積極的な治療をやめてから入院で受ける緩和ケア病棟(ホスピス)
      2. 3-2緩和ケア病棟探しフローチャート
        1. ・こうやって緩和ケア病棟を予約しました
      3. 3-3緩和ケア病棟でかかる費用
      4. 3-4緩和ケア病棟予約以外で準備しておくこと
    1. お役立ちサイト
    2. がん診療連携拠点病院 がん相談支援センター
    1. 支援者の方々

1 緩和ケアを正しく知っておこう

「緩和ケア」と聞くと、「治療方法がなくなった患者さんが、受けるもの。」
「がまんできないようなひどい痛みの時の治療。」 と、思っていませんか?

本来、緩和ケアは、がんの治療と並行して、
がんが原因で起こる苦痛や、様々な悩みに対応する治療のことです。
つまり、がんが見つかった時から、「痛い」「辛い」「苦しい」ことがあったら、
緩和ケアの対象です。

そして、再発転移がわかったら、体の痛みだけでなく
「これからどうなっちゃうんだろう?」「いつまで生きられるんだろう?」という、
悩みや不安を含めてケアしてくれるのが緩和ケアです。

ただ、現在の緩和ケアは、なかなか理想通りにはいっていないようです。
緩和ケア外来や緩和ケア病棟の数は少なく、
病院ごとの質のバラつきも大きいのが現状です。
また、がんの治療を続けている間は緩和ケア病棟には入院できない決まりですし、
入院したくても順番待ちが何十人という場合もあるようです。
つまり、終末期に良質の緩和ケアを受けること自体、そう簡単なことではないのです。

私たち患者は、緩和ケアについて、疼痛治療について、
正しい知識を持って、準備をしておく必要があると思います。
元気なうちに無駄なく行動する為に、まずは、このサイトに目を通してみてください。

2 痛みをがまんしないで

「がんになったら、多少の痛みはしょうがない。」「痛い痛いと、うるさく言うと、迷惑をかけるし、嫌われてしまうかも。」「痛み止めの薬は、飲み過ぎると効かなくなるのではないかと、なるべく飲まないようにしている。」「医療用麻薬と言うけど、麻薬は麻薬!依存症になったら怖い。」少し前までは、こんな声をよく聞きました。今も、そう思っている患者やご家族がいらっしゃいますが、決してそんなことはありません!

痛みは、がまんすればするほど痛みを感じる神経が敏感になってしまい、より強い痛みを感じるようになり、慢性化してしまいます。痛みを我慢することが、寿命を縮めるという報告もあります。「痛みはがまんしない!」ことが、私たちにとって、本当に大切なことです。

また、痛み以外にも、呼吸困難、咳、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、腹部膨満感、便秘、腸閉塞、不眠など様々な身体の苦痛を体験することがあります。これらの症状は、病状の進行とともに頻度が増してきます。

良質な緩和ケアを受けるために、痛みだけでなく体の苦痛は我慢せずに遠慮なく医療者に伝えましょう。

2-1 医師とのコミュニケーション

がんになった当初から「主治医と上手くコミュニケーションできない」という話しをよく聞きます。「お医者さんは、頭がよくて偉い人」「先生の機嫌を損ねたら大変」など、私たちはお医者様という職業への固定概念にとらわれているところはないでしょうか?そこから、無駄な遠慮や緊張感が出て、良いコミュニケーションができにくくなっているのかもしれません。緩和ケア科の医師は様々な苦痛を和らげる専門家ですが、苦痛や副作用を感じているのは私たち自身です。何に困っているのか、どういう治療を望んでいるのかを、しっかり正直に伝えないと自分にとって良い治療やケアは受けられません。「自分の状況や気持ちを正直に伝え、医師の話をしっかり聞いて受け止める」ことから始めてみませんか。お互いの立場を尊重し思いやりを持って向き合うことから信頼関係が生まれてくるのではないでしょうか。言うほど簡単なことではありませんが、納得のいく最期を迎えるために、まず自分から心を開いてみませんか。

2-2 痛みの伝え方

どんな痛みも自分にしか分からないですし、痛みの感じ方は、一人一人大きく違います。
だからお医者さんや看護師さんに、正直に具体的に伝える必要があります。痛みを正確に伝えるポイントを、確認しておきましょう。

7つのポイントを、記録して医療者に的確に伝えるようにしましょう。記録したメモやノートは、必ず医療者に見せて、痛みの状況を分かってもらうことが大切です。痛みが取れると、行動範囲が広がり、気持ちも明るくなります。痛みはがまんしないでください。

※疼痛治療経過メモは、緩和ケアで使われている一例です。病院で指定の書式がある場合もありますので、確認してください。

疼痛治療経過メモ (pdf)

2-3 痛みを和らげる治療の基本

1. WHO方式がん疼痛治療法

現在、ほとんどのがんの痛みは、和らげることができると言われています。緩和ケアの医師は、WHO(世界保健機関)が定めた疼痛治療法に沿って薬を処方しています。私たちも、疼痛治療薬の種類やその使い方の基本を知って、薬に対する誤解や不安を取り除いておく必要があるでしょう。

主な鎮痛薬の種類

現在、がん疼痛治療に使われている薬は、オピオイド、非オピオイド、鎮痛補助薬の、3種類に大別できます。

①オピオイド鎮痛薬

神経系にあるオピオイド受容体に結合することで痛みの信号の伝達を妨げ、痛みを緩和する薬の総称で、その多くは医療用麻薬に指定されています。強い痛みにも、とてもよく効く薬です。麻薬の悪いイメージで使うのをためらう方もいますが、鎮痛薬として医師の処方で使う場合は、中毒症状などは一切ないので、安心してください。オピオイド鎮痛薬には、次の2種類があります。

  • ・弱オピオイド鎮痛薬:コデイン、ジヒドロコデイン、トラマドールなど
  • ・強オピオイド鎮痛薬:モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど

飲み薬、貼り薬、点滴、注射、坐薬など、いろいろな種類があります。

②非オピオイド鎮痛薬

日常使う「痛み止め」とほぼ同じです。痛みが起きた場所で、痛みを感じる物質を抑える作用があります。2種類に大別されています。

  • ・NSAIDs(エヌセイズ): 非ステロイド性抗炎症薬。熱を下げたり、炎症を抑える効果もありますが、消化管粘膜に障害を起こすので、胃薬などと一緒に使います。(アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ロキソプロフェン、ジクロフェナックなど)
  • ・アセトアミノフェン: 炎症を抑える作用はありませんが、消化管粘膜にも影響が出ないので、エヌセイズが使えない場合によく使用されます。
③鎮痛補助薬

「ピリピリするような痛み」「電気が走るような痛み」など、神経障害性の痛みには、鎮痛補助薬が処方されることがあります。抗うつ薬・抗けいれん薬・抗不整脈薬・副腎皮質ステロイド薬などがあり、オピオイド鎮痛薬や非オピオイド鎮痛薬と一緒に使います。痛みを止める作用については、解明されていない部分もありますが、「鎮痛薬だけでは止められなかった痛みが嘘のように消えた。」という例も沢山あります。

鎮痛薬使用の5原則と三段階除痛ラダー
①まず内服薬(経口)でーーーby mouth

鎮痛薬には、飲み薬、貼り薬、坐薬、点滴・注射などさまざまな剤形がありますが、まずは、簡単で量の調整がしやすい飲み薬(経口内服薬)で始めるのが基本です。ただ、飲み込むことが難しいなど体の状況によっては、他の剤形からはじめる場合もあります。

②薬選びは、WHO三段階除痛ラダーに沿ってーーーby the ladder

下図(除痛ラダー)に沿って、鎮痛効果の弱いものから強いものへ、順番に使っていきます。ラダーとは、「段階」「はしご」の意味です。痛みが強い場合は、最初から強い効果の薬から始めることがあります。

※1段階目で使った非オピオイド鎮痛薬は、2・3段階目でも継続して併用したほうが、痛みを止める効果があると言われています。

③一人一人にあわせた適切な量をーーーby the individual

私にとっての薬の適量は、私の痛みが抑えられる量です。特にオピオイド鎮痛薬は、標準的な使用量はなく、数mg(ミリグラム)から始めて、痛みの様子を見ながら増やしていきます。この量は、個人差がありますので、同じ薬を使っている方と比べるのは意味がありません。また、薬の量が多くなることで病状に悪い影響がでることはありませんので、安心して痛みを抑える量にしてもらいましょう。その為には、薬を使ってからの痛みの変化を、正確にお医者様に伝えることが大切です。疼痛治療経過メモなどに、しっかり記入しましょう。

④時刻を決めて規則正しくーーーby the clock

薬は、血液中の濃度が必要なレベルになった時に、効果を出します。持続的な痛みを抑えるためには、薬の血中濃度を一定に保つ必要があります。このため、決められた時間に、規則的に薬を使います。風邪薬などのように「毎食後」などではなく、「12時間おき」「毎日10時」などの決められた時間に服用します。この薬を「定時薬」といいます。
また、突然出てくる痛みには、緊急的に薬をプラスして使います。これを「レスキュー薬」または「頓服薬」と言い、この場合も決められた時間の「定時薬」は変更なく続けます。

⑤細かい点に配慮するーーーattention to detail
副作用対策
薬によって、眠気、吐き気、便秘などの副作用があります。薬を使い始める時から副作用対策の薬を使うことがあります。飲む薬の種類が増えることを嫌がる方もいますが、副作用が辛くて鎮痛薬が使えなくなり、痛みが抑えられないのでは、本末転倒です。
安心・納得して薬を使う
薬に対する不安、副作用に対する不安は、遠慮なく医療者に伝えましょう。気持ちが安定することも、痛みをとる大きな要素です。わからないことがあると不安を大きくします。質問内容を自分なりに整理して、お医者さんや看護師さんや薬剤師さんに聞いてみてください。分からないことを聞くのは恥ずかしことではありませんし、医療者が患者に説明するのは大切な仕事の一つです。遠慮しないで聞いてください。
2. 他にもある痛みを和らげる方法
①放射線

骨転移による痛みには放射線照射が有効です。通常2週間かけて、3グレイ×10回の合計30グレイを照射しますが、4グレイ×5回、5グレイ×4回、8グレイ×1回など期間を短縮して行い患者の負担を軽くする照射法も行われています。
背骨の頚椎から腰椎の間にがんが転移し歩けなくなるなどの麻痺が出た場合も、24時間以内に放射線治療をすると、慢性的な麻痺が避けられる可能性があります。必要な場合は、主治医に相談して放射線科を受診してください。

②神経ブロック

局所麻酔薬や神経破壊薬を使って感覚を伝える神経をブロック(遮断・変性・破壊)することで、痛みを感じなくする方法です。「高周波熱凝固」という熱を加える方法や、痛みの強い部分の近くにカテーテル(管)を埋め込みモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を持続的に投与する「持続硬膜外ブロック」「持続くも膜下ブロック」という方法もあります。
痛みのある部分にだけ効果があり、全身に及ぶ副作用がないことが利点です。
ペインクリニックの専門医が担当しますが、まだまだ専門医の数が少なく、いつでも誰でも受けられる治療にはなっていないようです。

3. 副作用対策にもなる補助療法

がんの治療中でも主治医の了解を得て、漢方薬や鍼灸、アロマなどを利用するのはQOL(生活の質)を維持する方法のひとつだと思います。西洋医学と東洋医学の「いいとこどり」=「統合医療」が話題になっています。しかし、現状では、がんの痛みを和らげるのは、やはり緩和ケア科の治療が主役です。あくまで補助療法として捉え、緩和ケアの担当医に相談してから取り入れてください。

①漢方

長い歴史のある漢方ですが、近年緩和ケア専門の医師の中にも、抗がん剤の副作用対策や、QOLの向上を目的に漢方薬を処方する医師が増えてきています。国立がん研究センターが行なったアンケートでも、64.3%の医師が漢方薬を処方していると答えています。漢方薬は、四種類の診察(四診)で判断した患者一人一人の状態(証)に合わせて処方されます。

・痛みを和らげる効果が期待されるエッセンシャルオイル(精油)
ラベンダー、カモミール、マージョラム、ローズマリーなど

※アロマオイルは、100%ピュアで品質の確かなものを選び、使用上の注意を守って使いましょう。
※アロマテラピーは医療行為ではありません。また、アロマオイルは医薬品ではありません。

2-4 精神的な苦痛には

体の痛みだけでなく、「何もする気になれない」「気持ちが落ち込んで鬱々としている」「眠れない」「とにかく不安だ」などの精神的な苦痛も患者にとっては、とても大きな問題です。また、こころの苦痛によって体の痛みをより強く感じ、体の痛みがまた不安を大きくするという悪循環に至る場合もあります。精神的な苦痛は、とにかく一人で抱え込まないでください。

①話を聞いてもらう

家族や友人、主治医など自分が信頼できる人に話しを聞いてもらい、そのことで自分の気持ちの整理をするのもひとつの方法です。同じ経験をした患者同士で話すことで「ほっとした」という声をよく聞きます。患者同士のネットワークを持つことは、とても大きな助けになると思います。病院で患者会や患者サロンを組織しているところも多くなりましたし、ボランティアの患者会の聞き合いの会やピアサポートなどもあります。

再発がわかった4年前から患者会に参加しています。患者会では治療で迷っていることや悩みごとなど、心に溜ったストレスを患者同士で話し合っています。「病は気から」と言いますが、お互いに話し合うことで落ち込んだ気持ちを前向きに保つことができ、病気の緩和にもつながっていると思います。会の活動として、先生方の新しい治療の講演会や相談会も開いてくれますので、病気の知識も増えますし、困った時は専門的なセカンドオピニオンの相談にものっていただけます。複数ある患者会はそれぞれに特長がありますので自分のニーズにあわせて参加するのも良い結果が得られるのではないでしょうか。( 60代/乳がん患者)

患者会に参加する時に気をつけたいこと・自分に比較的近い年齢や病状の方と話す機会を作ってもらう。・置かれている状況や抱えている問題は一人一人大きく違うことを自覚しておく。・治療法や健康食品などの情報は鵜呑みにせず、自分で調べて自分に合っているか冷静に判断する。・お互いの状況や気持ちを尊重し思いやりを持って接する。

②専門家に相談する

親しい人に話すより専門家に相談する方が話しやすい場合や、話しを聞いてもらっても気持ちが治まらなくなってきた場合は、緩和ケア外来や精神腫瘍科・心療内科・臨床心理士などの専門家がいる医療機関を利用しましょう。目安としては、「眠れい、食欲がない、不安でしょうがない、何も手につかない、体がだるい」などの症状が2週間以上続いている場合は、適応障害やうつ病の疑いがあると言われています。その場合は早めに専門の医師に相談してください。

精神腫瘍科・心療内科の受診やカウンセリングを受ける時に気をつけたいこと・事前にがん患者の心の相談ができるか、紹介状が必要かを、電話で確認する。・カウンセリングの時間と料金を確認しておく。・薬が処方される場合は、必ず主治医に確認する。・カウンセラーや医師と相性が合わないと思ったら、早めに変更する。

現在治療で精神腫瘍科のある病院に通院または入院している場合は、主治医に相談し精神腫瘍科を紹介してもらえます。入院中は、担当医や看護師に相談してください。自分が動けない場合は、精神腫瘍科の医師に、病棟やベッドサイドまで来てもらうこともできます。また、ご家族が大きな心の負担を抱えている場合も少なくありません。家族のための外来治療も保険適用でおこなっています。気軽に利用しましょう。

再発がわかった4年前から患者会に参加しています。患者会では治療で迷っていることや悩みごとなど、心に溜ったストレスを患者同士で話し合っています。「病は気から」と言いますが、お互いに話し合うことで落ち込んだ気持ちを前向きに保つことができ、病気の緩和にもつながっていると思います。会の活動として、先生方の新しい治療の講演会や相談会も開いてくれますので、病気の知識も増えますし、困った時は専門的なセカンドオピニオンの相談にものっていただけます。複数ある患者会はそれぞれに特長がありますので自分のニーズにあわせて参加するのも良い結果が得られるのではないでしょうか。( 60代/乳がん患者)

2-5 最期まで苦しまない治療「セデーション」鎮静

がんが進行し最期が近くなった時に、疼痛治療を十分に行っても取れない苦痛が出ることがあります。呼吸困難や強度の倦怠感、意味不明の激しい言動(せん妄)などの症状です。この症状を抑える為に、鎮静薬を使って意識レベルを低下させ、穏やかに眠ったような状態にする治療法がセデーション(鎮静)です。

会話や体を動かすことはできなくなりますが、聴覚と触覚は残ります。「病室にいるお見舞いの方や医療者の話しは聞こえるけれど、返事をしたり意思を表現することはできない」「優しく手を握ってくれているのはわかるけれど握り返すことはできない」という状態です。セデーションにもガイドラインがあり、必要な患者に必要な時期に行われる医療行為ですが、本人や家族の意志が大切です。

鎮痛薬で痛みが抑えられている間に緩和ケアの担当医や家族と相談し、自分の意思を伝えておく必要があります。

2-6 がんで亡くなる場合の「体力の落ち方」

がんで亡くなった方のお友達から、「つい3週間前にランチを一緒にしたばかりなのに」「先月、海外旅行から帰ってきたばかりなのに」という、驚きの声をよく聞きます。一般的な病気では、亡くなる前に、体力が落ちて、歩くのがしんどくなり、車椅子になり、寝たきりになり、食べられなくなり、感覚がなくなり、亡くなっていくという過程が徐々に訪れるという印象があります。でも、がんの場合は、普通の生活ができなくなってから亡くなるまでの時間が、思ったより短いと実感する方がほとんどです。

つまり、体力が落ち始めてから、「何かまとまったことをしよう」というのは、かなり難しいと考えておくほうが懸命です。自分がいつから体力が落ち始め、動けなくなるのかは自分にも分かりません。ですから、無理なく動けるうちに「やるべきこと、やりたいことは、今のうちにやっておくこと!」が大切です。それは、実は健康な人でも同じです。でも、死を身近に感じないと、なかなか実行できないのも事実です。「今は、元気だけど体力が落ち始めたら、そこからは早いぞ」という覚悟をどこかで持っておくことも必要かもしれません。

そして、もう少し(1~2ヶ月又は数週間単位)で体力が落ち始めるかもしれないという状況を、主治医は、予測していることが多いようです。どんな時でも、自分の状況をしっかり把握しておきたいと思う方は、主治医とのコミュニケーションをしっかり取って、「その時には、オブラートに包まず教えてください」と、前もって伝えておくことも大切かもしれません。

3 あなたに合う緩和ケアの探し方

3-1 緩和ケアの種類

がん患者に対する緩和ケアは、全国427(2016/8現在)のがん診療連携拠点病院を中心に少しずつ整備され始めています。緩和ケアを受けるには、大きく分けて3つの方法があり、その時の患者の状況や希望に合わせて選ぶことができます。

1. がん治療中に受ける緩和ケア(緩和ケアチーム)

一般病棟に入院している時や外来治療を受けている時から、痛みやつらさを和らげるために緩和ケアチームのケアを受けることができます。今かかっている病院に緩和ケアチームがある場合は、主治医や看護師さんに「緩和ケアを受けられますか?」と相談してみましょう。痛みだけでなく、精神的なケア、食事指導、家族のケアなども受けられます。今かかっている病院に緩和ケアチームがない場合は、緩和ケア外来のある他の病院を受診することになります。その場合は、近くのがん拠点病院にある相談支援センターに電話で問い合せて見てください。がん診療連携拠点病院/がん相談支援センター
受診には、主治医からの紹介状が必要になります。

2. 在宅で受ける緩和ケア

自宅で生活しながら、訪問診療や訪問介護を利用して緩和ケアを受けることもできます。がん治療の主治医や緩和ケア医と訪問診療してくれる医師、訪問看護ステーションの看護師が連携して緩和ケアを提供してくれます。在宅で緩和ケアを受けるには、本人の希望以外にもいくつかのポイントがあります。

在宅緩和ケアについても、「がん拠点病院の相談支援センター」に相談してみましょう。地域の在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションを紹介してくれます。在宅療養支援診療所は、「在宅医療ネットワーク」や「在宅ケアデータベース」のHPでもリストアップされています。
また、主治医と在宅療養支援診療所の医師や介護スタッフとの連携をスムーズにするために、東京都では、「東京都緩和ケア連携手帳~わたしのカルテ~」を配布しています。HPからもダウンロードできます。

在宅医療ネットワーク 全国在宅療養支援診療所連絡会
末期がんの方の在宅ケアデータベース
東京都がんポータルサイト「東京都緩和ケア連携手帳~わたしのカルテ~」

在宅緩和ケアには家族の協力が不可欠ですが、ケアする家族の負担が大きくなり過ぎると患者の心の負担も大きくなってしまうことがあります。途中で入院に切り替えたり、介護保険を利用して短期入院したり、その時々の状況に合わせて対応しお互いに無理をしないことが大切です。

3. がんの積極的な治療をやめてから入院で受ける緩和ケア病棟(ホスピス)

緩和ケア病棟では、患者の痛みやつらさを和らげることを目的に、緩和ケア科の医師と看護師を中心に治療とケアを行います。ボランティアの方の働きも重要なケアのひとつです。

緩和ケア病棟の特徴
  • ・入院するのに審査がある。
  • ・入院の順番を待つ場合もある。
  • ・がん患者の体や心の痛みを緩和することを目的にしているので、積極的な治療は行わない。
  • ・痛みがとれた時には、退院や転院になることもある。
  • ・病院により大部屋と個室がある。個室は室料がかかる部屋とかからない部屋がある。
  • ・入浴や散髪、口腔ケアなど日常生活の介助が受けられる。
  • ・患者や家族がデイルームでくつろいで日常の時間が過ごせる。
  • ・面会時間の制限がゆるやかで、家族が泊まることもできる。
  • ・ボランティアスタッフの協力で、演奏会などのイベントを行うこともある。
  • ・患者の希望があれば、宗教家などとの面談によるスピリチュアルケアを受けられる。

など、一般病棟にはない様々な特徴がありますが、病院によっても違いがあります。自分で無理なく動ける間に、自分に合った緩和ケア病棟を探して予約しておく必要があります。

3-2 緩和ケア病棟探しフローチャート こうやって緩和ケア病棟を予約しました!

全国427(2016/8現在)のがん診療連携拠点病院には、がん相談支援センター(相談室、よろず相談室)が必ず設置されています。無料で、がん患者や家族のどんな相談も受け付けています。
※病院によりシステムの多少の違いはありますが、私たちが実際に探した過程をご紹介します。

緩和ケア病棟探しフローチャート

自分が通っている病院でなくても大丈夫

がん診療連携拠点病院

今の状況や希望をしっかり伝える

主治医の紹介状などは必要なし。地域の緩和ケアの現状がある程度把握できる。

HPで、緩和ケア科の医師の名前・人数などを確認

できれば患者のクチコミも参考に。キリスト教系など病院のバックボーンもチェック。

入院の条件、病棟の状況など詳しく聞く

できれば病棟を見学させてもらう。病院全体の雰囲気、環境などもチェックしておく。

それぞれの病院の特徴がわかってくる

緩和ケア病棟の平均的な姿が見えてくる。

ここまでは元気なうちに動いておくと安心

電話予約をすると準備する書類が送られてくる

病院によって差があるが、主治医の紹介状や診療情報提供書などが必要。今後、延命治療をしないことを家族の中で意思統一をしておく。

緩和ケア病棟での医療行為の説明を受ける

医師との相性も大切。
面談後、病棟見学ができる場合もある。

登録した連絡先に電話か手紙で通知が届く

2~3病院同時に入院待ちをしてもOK

順番がきても入院を断ることもできる。順番待ちの間は緩和ケア外来を受診できるが緊急入院はできない。緊急の場合は元の病院に相談する。

3-3 緩和ケア病棟でかかる費用

「緩和ケア病棟」という承認を受けた病棟に入院した場合、医療費は、どんな治療を受けても1日ごとの定額制です。それに、食事代がプラスされます。

1日 14,373円 食事1食260円×3食 15,153円×入院日数

健康保険適応分なので、高額療養費制度が適応されます。自分が加入している健康保険や収入によって自己負担限度額が違ってきます。健康保険証の裏に書いてある連絡先に問い合わせると正確な金額がわかります。

健康保険適応外の料金

一番高額になるのが、室料です。

緩和ケア病棟は、「差額室料がかからない病室」を「差額室料がかかる病室」と同数以上持たなければならないことになっていますが、入院を急ぐ場合は、「差額室料がかかる病室」に入る場合が多くなります。差額室料は、病院や病室の設備、広さなどによって異なります。8,000円~35,000円ぐらいの間で設定されています。1日の料金なので、×入院日数です。

3-4 緩和ケア以外で準備しておくこと

お金の管理について
  • 1. 自分の資産(不動産、預貯金、株、有価証券など)や生命保険の状況を、整理してみる。
  • 2. 医療費などで使う金額の概算を出す。
  • 3. 公的補助(高額療養費制度、介護保険の要介護など)が自分の場合どの程度受けられるか「がん相談支援センター」に相談する。
  • 4. 生命保険(がん保険、リビングニーズなど)の状況を加入している保険会社に確認する。
  • 5. 遺産相続、寄付、葬儀の方法など自分の意思を遺言書にする。※「エンディングノート」「もしもノート」なども活用できます
  • 6. 動けなくなった時のお金の管理などを頼む人を決める。
  • 7. 遺言書に沿って、遺産相続手続きをする人を決める。

これらは家族や親族の方にお願いする場合が多いですが、有料で全てを請け負ってくれるNPO法人、会社、団体、個人なども増えています。最近、悪質な業者も出てきていますので、まずは、社会福祉法人 社会福祉協議会など、公共機関が運営している、支援センターや相談窓口(地域包括支援センター)に相談して、信用と実績のある会社を選ぶことが大切です。

お役立ちサイト/厚生労働省 地域包括支援センターを探す

公的補助について

・高額療養費制度

1ヶ月の健康保険適応医療費で、限度額を超えた分を負担してもらえる制度です。健康保険の種類や所得額によって限度額が変わります。国民健康保険で所得区分が、
年間所得210万円~600万円の場合は、1ヶ月80,100円+(医療費-267,000)×1%が限度額です。
また、直近12ヶ月の間に、限度額を3回支払った場合は、4回目から限度額が44,400円になります。
(2016年8月現在)

お役立ちサイト/厚生労働省 高額療養費制度を調べる

・介護保険

40歳以上で、がん(末期がん)が原因で要介護状態になった方は、介護保険が利用できます。

※申請し一次判定・二次判定を経て認定されるまで2~4週間かかることもあるので、早めに申請する。
※医師の意見書に、末期がんで症状が不安定と記載してあると、要介護認定が受けやすい。
※要介護2以上に認定されると特殊寝台など福祉用具が1割負担でレンタルできる。
※認定に不満がある場合は、区分変更申請ができる。

・障害年金

病気やけがによる障害で、日常生活や仕事に支障がでたときに支給される公的年金です。

  • 1. 障害の原因になった病気(がん)の初診日に、公的年金に加入していた。
  • 2「. 初診日の前々月までの年金保険料が、2/3以上納付または免除されている。」「初診日に65歳未満で、初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がない。」どちらかに当てはまること。
  • 3. 一定の障害の状態にある。

人工肛門や新膀胱の増設などだけでなく、初診日から1年6か月経過し、抗がん剤の副作用による倦怠感、末梢神経障害(しびれ、痛み、浮腫)、貧血、下痢、嘔吐、体重減少などで仕事や生活に支障をきたす状態が認められれば支給される可能性があります。

障害年金は、年金を収めている人の当然の権利ですが、申請には様々な書類を提出した上で、審査があります。まずは、がん相談支援センターのソーシャルワーカーに相談してみましょう。その上で、申請を有料で代行する社会保険労務士に依頼する方もいらっしゃいます。

再発がわかっても、すぐに命に関わるわけではありません。元気なうちにある程度準備を進めても、いざ自分が緩和ケア病棟に入りたいという時に、空きベッドがなく待たされるということもあるかもしれません。又、それぞれの方のその時の状況に合わせて、主治医やソーシャルワーカー、親族、友人、知人が手を差し伸べてくれてなんとかなっているのが現状のようです。それでも、自分らしく生きて自分らしい最期を迎えるために、的確な情報を持って、最善の準備をしておくことが、心穏やかに日々を過ごす第一歩だと考えています。

お役立ちサイト

がん診療連携拠点病院 がん相談支援センター

がん診療連携拠点病院 がん相談支援センター
http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpKyotenSearchTop.xsp

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